豊田章男社長のインタビューを採点

CNNの看板番組「ラリー・キング・ライブ」での豊田章男社長のインタビューを採点

トヨタ自動車の豊田章男社長は2010年2月24日、CNNの「ラリー・キング・ライブ」に出演した。私が見た放送には「録画」と表示されていたので、生出演ではない感じだった。どの程度の編集があったのか、全く無かったのか分からないけれど、個々の一問一答は編集なしで放送されているように見えた。このインタビューをメディアトレーニングの講師の立場から採点したい。

ラリー・キング・ライブはCNNの看板番組で、1時間のトークショーである。内容が再放送の場合もあるが、毎日、1時間、放送されている。1985年からずっと続いている番組だそうだから、すでに25年の長寿番組だ。CNNの番組案内には「トークの帝王による至高のインタビュー」と書いてある。政治家、芸能人、NGO等で活躍している人たちなどあらゆる人たちが出演する。

内容は事件、事故、芸能ネタ、スキャンダル的なものから、真面目に政治や経済、外交、そして家庭生活を考えるもの、健康や趣味に関するものなど、あらゆるジャンルにわたる。去年6月のマイケル・ジャクソンの死去の時は、1週間以上、その話をぶっ続けでやっていて、私は毎日見ていた。

キング氏は、どきっとするくらい厳しい質問をゲストにばんばん浴びせるし、ゲストの本音を引き出す巧みな話術を駆使する。また、ゲストのコメントがあまりにも突飛だったり空回りしたりしていると、厳しく変だと指摘したりする。

確かに帝王の側面もある。しかし、この番組の魅力は、キング氏の深い知性に裏打ちされた懐の深いインタビューと、それでいて、インタビュアーとして、普通人というか、常識的な人間としての視点を常に持ち続けていること、そして何より出演者に対して示される尊敬と優しさだと思う。

そんなわけで、豊田社長が、ラリー・キングに出演すると知って、私は大興奮。キング氏が豊田社長をこてんぱにやっつけるなんてことはあり得ないが、豊田社長が厳しい質問にきちっと、満足に答えられなければ、墓穴を掘ることになる。正直、「大丈夫かな」、「恥をかかなければいいのだが」と、心配しながら番組を見た。

結論から言おう。すばらしいインタビュー対応だったと思う。メディアトレーニングの講師として、満点に近い点数をあげたい。また、日本企業のトップが、外国メディアのインタビューを受ける場合は、この番組をお手本として、ご覧になることお薦めしたい。なぜ、そう思うかは、以下、詳しく説明するが、その前に 2つお断りがある。

私の採点は、メディアトレーニングの講師の立場から、あくまでも一般的な答えかたとしての良し悪しである。私は、今回のインタビューの質問あるいは答えに対する背景知識や専門知識を持っているわけではない。仮に、であるが、豊田社長の回答に事実あるいは真実にそぐわない点があったとすれば、それは当然良い回答ではない。ただ、その点は、私を含む多くの視聴者には分からない。もし、間違いがあったとして、それが後で明らかになれば、その点にたいして話し手は批判を受けることになる。これは誰のインタビューでも同じだ。繰り返すが、あくまでも一般論、あるいは私がメディアトレーニングで講義している一般的な立場からの採点である。

2点目は、私が見たこの番組は、豊田社長の日本語の声の上に通訳の英語の声がかぶさっており(副チャンネルの音声)、その通訳の英語の声をさらにCNNの通訳が日本語にして主チャンネルの音声として放送されていた。そのため豊田社長の日本語回答は、ほとんど聞き取れなかったので、以下に書いた豊田社長の回答は、通訳を2度通した豊田社長の回答であり、時には、その要旨である。

冒頭、ラリー・キング氏は「公聴会では、通訳は逐次で遅れがあったが、この放送では同時通訳を付ける。ところで、公聴会の当初、流ちょうな英語で話したのに、なぜ通訳をつけたいのですか?」と問いかけた。豊田社長は「今日公聴会という機会を与えられ、お客様の信頼を再び勝ち取るために懸命に努力していることを正確に伝えたかったからだ」と回答。仮に、「正確に伝えたかったからだ」、あるいは、「英語は母国がでないので、通訳を付ける方が正確に伝わると思った」などと答えた場合と比較すると、「お客様の信頼を勝ち取るために懸命に努力している」というキーメッセージをポジティブな形でちゃんと付けている点がすばらしい。

キング氏「今日はあなたにとって困難な日でしたか?」
豊田社長「正直、楽な一日ではなかったが、一生懸命努力した。誠意がどこまで伝わったか分からないが、ディーラー、ご支援をいただいているお客様、サプライヤー、同僚や社員からサポートをもらい、踏みとどまっている」

とても正直な答えと聞こえ、好感が持てる。同時にサポーターがたくさんいるのだというキーメッセージを打ち出している。

キング氏の「議員のあなたに対する扱いは公正だったと思いますか?」との質問に、豊田社長は「公聴会は初めてなので、公正なのかどうかは分からない」と直接の返事、あるいは結論を述べたあと、「公聴会での私の話をどの程度理解いただいたか分からない。これからも引き続き、みなさまがご理解いただけるまで話をしたい」と、非常に分かりやすく答えると共に「みなさまがご理解いただけるまで話をしたい」というキーメッセージを展開している。

キング氏「今回の件について、あなたのおじいさん(豊田喜一郎氏)はどう考えたでしょう? どのくらい失望したでしょうか」
豊田社長「トヨタ車に乗るお客様の信頼を取り戻すよう指導力を発揮しなさいと言っていると思います」

ここでもポジティブに受け答え、同時に「信頼回復」というキーメッセージを展開している。

キング氏「公聴会でマーシー・キャプター議員が、謝罪は十分でなかったと述べているが、あなたは今回の件で、どのくらい悲しんでいますか?」
豊田社長「トヨタ車にはすべて私の名前が付いています。もしお客様のトヨタ車に対する信頼感が薄れるとすれば、それは私に対する信頼が薄れることを意味します。時には、私が十分に説明をしていないと指摘する人たちもいます。それは残念なことです。これからも十分に説明してゆきたいと思います」

前の2つの質問と回答例は、私のメディアトレーニングの「質問の本質に答える」訓練に使いたい好例です。「質問の本質」と言うと難しく聞こえますが、実は簡単で、記者が最後に聞いたこと、それが「質問の本質」です。私は常に、質問の本質から答えなさいと指導しています。

最初の質問は「今回の件について、あなたのおじいさん(豊田喜一郎氏)はどう考えたでしょう? どのくらい失望したでしょうか」です。記者が最後に聞いたことは「(豊田喜一郎氏は)どのくらい失望したでしょうか?」であり、これを質問の本質とすれば、「失望はしていないと思います」と返事をし、その後で「これを教訓として、トヨタ車に乗るお客様の信頼を取り戻すよう指導力を発揮しなさいと言っていると思います」と言うと明快に理解できます。

二つ目の質問「公聴会でマーシー・キャプター議員が、謝罪は十分でなかったと述べているが、あなたは今回の件で、どのくらい悲しんでいますか?」に対して、豊田社長は、最初に質問の本質に答えているのです。ただ、「返事」が欠けていました。回答の種類によりますが、「返事」と「結論」のパッケージで答えると、すっと頭にはいる場合があります。

「公聴会でマーシー・キャプター議員が、謝罪は十分でなかったと述べているが」という部分は、キング氏のコメントであって、質問の本質ではありません。「あなたはどのくらい悲しんでいますか?」というのがキング氏の質問の本質です。これに対して、「大変悲しんでいます」、「心から悲しんでいます」という返事をして、それから「トヨタ車にはすべて私の名前が付いています。もしお客様のトヨタ車に対する信頼感が薄れるとすれば、それは私に対する信頼が薄れることを意味します」と回答をし、さらに「これは私にとって非常に悲しいことです」と付け加えたら、とても明快な回答になったと思います。

私のメディアトレーニングでは、「返事」と「結論」の違いについて、しっかりと訓練をします。なぜかというと、「返事」と「結論」は同じものだと考えておられる方が多いのです。同じ場合もあるでしょうが、本来は違うものです。そして、理解しやすい、すなわち、聞き手の頭にスパッと入る回答は「返事と結論のパッケージ」である場合が多いのです。

返事は「そうです(Yes)」、「違います(No)」だけではありません。今回の質問のように「どのくらい悲しんでいますか?」に対する返事は、「大変悲しんでいる」、「少しだけ悲しんでいる」、「悲しんでいない」などであるべきです。つまりこの種の質問に対してYesとNoでは返事ができません。

公聴会では、時々、返事なしで結論を述べた豊田社長に、「YesかNoか?」といらだった議員から返事を迫られた場面がありました。実際は、YesかNo の二者から選択する必要は全くありません。「それは現時点では私どもには分かっていないことです」、「今、YesかNoかで直裁に答えるのは難しいです」、「そのご質問にはコメントできません」というのも返事です。

繰り返しますが、返事はYesとNoだけではありません。Yes, Noが使えない場合も含め、返事には無限のバリエーションがあります。そして「返事」と「結論」をパッケージにして答えると、返事がYesまたはNoでなくとも、非常に明快な回答となる場合が多いのです。

それでは、「結論」というのは何かというと、「返事に対する簡潔な説明」が結論であると私は考えています。今回の例で言うと、「トヨタ車にはすべて私の名前が付いています。もしお客様のトヨタ車に対する信頼感が薄れるとすれば、それは私に対する信頼が薄れることを意味します」という簡潔な説明が結論なのです。

逆に言うと、たとえば、「そのご質問にはコメントできません」という返事だけでは、かえって聞き手に不快感を与えてしまいます。「返事」は「結論」、すなわち「返事に対する簡潔な説明」とパッケージにして回答する必要があります。たとえば、「そのご質問にはコメントできません。現在調査が進められており、原因はまだ究明されていません」と、返事と結論をパッケージにして答えると、分かりやすく、納得しやすくなります。

「質問の本質」に答える訓練に戻りますが、これは非常に大事です。この訓練どおりにやれば、辞任せずにすんだかもしれないと思う会社のトップを私は何人か知っています。

一例をあげると、かなり昔、私が立ち合ったインタビューですが、ある全国紙の記者が、ある建設会社のトップにインタビューした際、「ほとんどの建設会社が談合に参加している。談合は諸悪の根源だ」というようなコメントを記者が最初に述べた後、「御社は談合には加わったことはないですよね。今後、談合に参加しないための社内規則など作っておられますか?」と聞きました。かなり巧みな質問で、引っかけを狙っているように聞こえました。

このトップは、いわゆるオーナー社長ではなく、終身雇用の階段を上りつめ、社長についてから数年というトップでした。「私どもは談合に参加したことはない」と答えた場合、この社長が知らないところで社員が談合に参加していた場合、そしてそれが後で明らかになった場合、社長は嘘をついたと見なされて、批判されます。また、「今後、談合に参加しないための社内規則など作っておられますか?」という質問の「今後」という部分は、引っかけっぽい、微妙な表現です。

瞬時、私の頭に浮かんだ回答は「私が知る限り弊社が談合に参加したことはありません(返事)。あなたがおっしゃるように談合は悪いことです。だから、今後も、決して談合をするというようなことがないように、○○○○をしています(結論)」でした。

ところが、この社長は、「御社は談合には加わったことはないですよね。今後、談合に参加しないための社内規則など作っておられますか?」という質問の本質には直接答えずに、談合の功罪についての議論を始めてしまったのです。

社長は自社が談合に参加したことがある事実を認識していて「質問の本質」に答えるのが嫌で、記者のコメントにたいする議論をはじめたのかもしれないと、側で聞いていた私は想像しました。しかし、後で聞いたところ、そうではなく、記者の「談合が諸悪の根源だ」とするコメントと「ほとんど全部の建設会社が談合に参加している」というコメントにカチンときて、談合の功罪についての議論を始めてしまったそうです。

議論が白熱し、ついに社長は「世の中には必要悪という言葉もあるからね」というような発言をし、さすがに私はオブザーバーの立場を捨てて議論の中に割ってはいり、冷静さを取り戻した社長は謝罪をし、発言の取り消しをお願いし、記者が同意したことにより、翌朝掲載された記事は、この部分については何も触れていませんでした。

その時は「山口さんに同席してもらって良かった」と社長に言われたのですが、その社長はしばらくして、任期前に、唐突に「健康上の理由」で辞任してしまいました。私のお見舞いの電話に対して「あの記者にやられた」と社長は答え、それ以上の話はしてくれませんでした。背景で何があったのか分かりませんが、記者のコメント部分は無視して、「質問の本質」にだけ私が瞬時ひらめいたように答えておけば、辞任しなくて良かったような気がします。

豊田社長のインタビューに戻ります。「トヨタ車の暴走事故で一家4人が死亡したセイラー家の遺族に対して直接何と言いますか?」の質問に対して「トヨタの車で人生の最後を迎えることとなった方々に心の底からお悔やみを申し上げたい」と答えています。良い答えだと思います。

キング氏「振り返ってみると、どこに責任があるのですか? どこから始まったのですか? 誰が悪いのですか? 技術者ですか?」
豊田社長「トヨタでは懸命に努力して良い製品を世に送り出そうとしています。原因は何かと考えると多くの要素があると思います。この70年間、常に、車作りは人作りだと言ってきました。しかし、トヨタの人的資源の開発がビジネスの急速な発展に追いつかなくなってしまったのかもしれません。さらに、トヨタは製造業の企業ですが、利益を追求しすぎていると指摘する人もいます。そうした点が、組織の中にあったのかも知れません。去年の7月に社長に就任して以来、私はより良い車を作るようにとすべての従業員にメッセージを送り続けています。そうすることでお客様に満足していただけるようにしたいと思います。その姿勢をこれからも維持して基本に戻りたいと思います」

記者会見や記者インタビューに臨む時は、事前にQ&Aを(想定問答集)を作り、何度も読んで、自然に口に出てくるようにすることが大切です。今回のリコール問題で、もっとも重要かつセンシティブな想定質問は、「どこに問題の原因があったか? それは誰の責任か?」であったと思う。トヨタはこのQ&Aを練りあげたことだろう。豊田社長の回答に対する私の感想は、「無難」の一言。また、このような質問には、回答の後半では、今後の防止策・回復策を述べなければならない。豊田社長の「去年の7月に社長に就任して以来」から防止策の部分が始まるわけだが、内容は教科書的で、淡々としていて、感動がない。これも「無難」の一言。

実は私は、「無難」と言って回答や話し方をけなしているのではない。褒めているのだ。大統領の就任スピーチではないので、聞き手を感動させる必要はない。むしろ、こんな場合、感動的なコメントを述べると、視聴者の一部は必ず大きく反撥する。「誰が悪いのか、誰の責任か?」の質問に対する答えは、その後の補償問題や社会的名声に大きな影響を与える。まずは、「無難」にこなすこと。それが第一だ。名誉回復のチャンスは、あとで幾らでもある。

キング氏「800万台の車がリコールされています。豊田さんが責任をとるというのは、顧客のために何をするというのですか?」
豊田社長「まずはお客様に申し上げます。トヨタ車は安全です。現在、お客様の一番の心配事は意図しない加速だと思います。また電子制御スロットルに不安を感じている方もおられると聞いています。私はアメリカの皆様にご説明したい。トヨタの技術者は、こうした問題を再現しようと努力していますが、これまでに、そうした現象を再現するとはできませんでした。ですから、今の時点では、トヨタ車は安全であると申し上げたい。しかし、車の使い方、道路の交通状況、またどの程度長く車を使ってきたのか、そして運転者がどのような行動を取るかによって、状況は変わってきます。お客様の声に誠意をもって耳を傾け、その上で対応したいと思います。そのようにして問題の解決にあたりたいと思います。もちろん今後、こうした問題と直面した際は、さらに迅速に対応したいと思います。それが私の責任であり、そのような指示をできるのは私だけだと思っております。」

電子制御スロットルに問題があるとする主張は、もし事実だとすれば、トヨタにとってもっとも深刻な打撃となる。それで、豊田社長は、電子制御スロットルに今は問題が発見されていないとするキーメッセージをここで展開したのだと思う。

しつこいようだが、私は「質問の本質」に最初に答えてから、キーメッセージ(今回は、電子スロットルには今のところ問題は発見されていない)を展開した方がスムーズだし、余計な追加質問を誘わないと思う。キング氏の質問は、「800万台の車がリコールされています。豊田さんが責任をとるというのは、顧客のために何をするというのですか?」だから、質問の本質は最後の「顧客にために何をするか?」だろう。これを最初に答えないと、インタビュアーは自分の質問に答えてもらえていないと感じて、次に、同じ質問をより具体的に、ネガティブな形で聞いてくる。「あなたは一部の車にどんな場所で、どういう状況で運転すべきかなどの警告を付けるといっているのですか?」と次に聞いたように。

電子制御スロットルに関するキーメッセージは社内で練りあげたものだろう。周到かつ模範的なメッセージだと思う。

キング氏「最終責任は自分にあるというわけですね。あなたは一部の車にどんな場所で、どういう状況で運転すべきかなどの警告を付けると言っているのですか?」
豊田社長「車は各地の道路が作るものだと思います。道路状況は常に変わりますので、常に注意を払う必要があります。だから、警告をここに付ける、あそこに付けるとは言えません。むしろお客様の声にもっと注意を払うべきです。より利便性の高い車、さまざまな状況に対応できる車を作って行きたいと思います」

すばらしい回答だと思う。

キング氏「加速問題の理由は分かりましたか?」
豊田社長「大きく4つくらいの原因要素があると思います。電子制御スロットルに問題がある場合、車の運転の仕方、アクセルの位置などの車の構造、そして部品に問題がある場合の4つです。電子制御スロットルに関するかぎり、私たちの調査では問題はありませんでした。しかし、残念ながら事故が発生しています。さまざまな方々と協議をし、引き続き何が原因かを追及したいと思います。それ以外の3つの原因要素については、ブレーキ・オーバーライド・システムを付けたいと思います。これでほぼあり得ないケースも対応できます」

これも社内で練りあげた回答だと思うが、パーフェクトだと思う。特にブレーキ・オーバーライド・システムの導入をここで話すことにより、視聴者に大きな安心感を与え、トヨタは真摯だという印象を与える。

キング氏「あなたは運転者の原因にしていないわけですね」
豊田社長「全く、そういったことはありません」

トヨタが内心どう感じていたにしても、メディアインタビューにおける視聴者のセンチメントを刺激しないための現段階の回答はこれしかない。満点。

キング氏「トヨタは犠牲者の葬儀代・治療代を支払うつもりですか?」
豊田社長「今後の法的な問題ですので、これからは最大限の努力をしたいと思います」

これも満点の回答。それに、この回答は100%真実でしょう。いわゆる謝罪会見で、同様な質問を受けて「できる限りの補償をするよう努力します」と答える企業トップが多いが、普通の視聴者は、リップサービスだと感じてしまう。被害者は「できる限りの補償」を勝手にできる限りは幾らと解釈するかもしれない。「今後の法的な問題ですので」ということにより、回答の真実性が大きく増す。この回答に対するキング氏の「それは当然ですね」というコメントは、好意的なコメントであるとの印象を私は持った。

キング氏「それは当然ですね。批評家は、あなたは迅速に対応しなかったと言っています。もっと早くこれにかかわるべきだったと多くの日本国民が言っています。振り返ってみて、もっと素早く行動すべきでしたか?」
豊田社長「今、振り返ってみるともっと迅速な対応をすべきだったと思います。トヨタは急速に世界的に展開をしてきました。私が社長に就任して以来、各地域に副社長を任命し、それぞれの地域に対応させてきました。その方が地域に密着してお客様に対応できると思ったからです。これだけ大きな問題が生じてしまいましたので、私自身がもっと早く対応すべきだったと反省しています。中には、その点について不満と感じておられる方もおられると思います。その点にお詫びを申し上げたいと思います。」

正直な回答で好感が持てる。対応策も述べている。法的な問題から言うと自ら対応が遅れたと認めている点はまずいと思う弁護士もいるかもしれないが、いろいろなニュースを見ていると対応が遅れたのは、客観的な事実のように思われる。とすれば、「対応が遅れたことに不満を感じておられる方にお詫びしたい」というのは、とても常識的な(だからすばらしい)答えだと思う。また、最初に、「今、振り返ってみるともっと迅速な対応をすべきだったと思います」と、きちっと質問の本質に最初に答えている点が、回答をとてもわかりやすくしている。

キング氏「豊田さん、トヨタはカムバックできるのでしょうか?」
豊田社長「はい。トヨタの従業員は一丸となっています。お客様の安全を一番に考えており、それがモットーとなっています。私たちの最大の目的は品質の良い車を提供することです。それにより、お客様が車に満足してもらえる、ドライブを楽しんでもらえることが目標です。残念ながらお客様が品質について、懸念をもたれることになりました。これからお客様ともっと対話を持ち、車の運転をもっと楽しく安全にできるように計って行きたい。そのために懸命に努力をして行きます。ですからサポートをいただきたいと思います」

「トヨタはカムバックできるのでしょうか?」と聞いているのだから、願わくは「はい、できます。」としっかり返事をしてから、結論とキーメッセージを展開して欲しかった。その後に展開したキーメッセージの内容はすごく良いと思う。

キング氏「あなたは、今回の件で、日本たたきが行われていると思いますか?」
豊田社長「日本バッシングですか? そうは思いません。今回、品質の問題で、私どもはいろいろ学ぶことがありました。私どもにとっては、振り返ってみる良い機会だったと思います。今回は学びの経験と認識しており、この経験をテコにして、カムバックを果たしたいと思っています。日本たたきだとは思いません」

最高の回答だと思う。ネガティブな質問にはポジティブな答えをするというのは、メディアトレーニングで教える基本の一つだが、それ以上に素晴らしい答えをしている。

キング氏「あなたは公の場にでるのは好まないと聞いていますが、この番組の出演はむずかしかったですか?」
豊田社長「メディア嫌いの私が、ラリー・キングさんの番組に出演できたことは大変光栄に存じます。トヨタとして最初の出演です。これまでは、あくまでも主役は車だと思っており、私は脇役に徹すれば良いと思っていました。しかし、今後トヨタが前進するには、考え方を変えなければいけないかもしれません。お客様と率直に私が直接お話をしなければいけないかもしれません。」

これも大変に好感が持てて、真摯に響く、最高の回答だと思う。今後は、豊田社長がリーダーシップを発揮して、真剣に取り組むのだというキーメッセージが明確に出ている。

キング氏「豊田さんはどんな種類の車を運転していますか?」
豊田社長「私はいろいろな車に乗っています。一年に約200種類の車に乗ります。ですから、どの車に乗っているかと申し上げるのは非常に難しいです。車が大好きです。」

豊田社長はこの回答には余裕を持って微笑を浮かべながら答えている。別な自動車メーカーのトップがこの番組で、同様な質問に同様な答えをしていたことを思い出した。豊田社長の回答の中身が真実であったとしても、このような質問には、このように答えると効果的だとか、好意的に響くというような、一種パターン化された回答例がアドバイザー達の手元にあるのだろう。

私は豊田社長がラリー・キング・ライブ出演に際してメディアトレーニングを受けたのかどうかは知らないが、公聴会も含めて、アドバイザー達からしっかりトレーニングを受けたであろうと想像する。トヨタは素晴らしいアドバイザー達を使っている。それより何より、豊田社長は最高のスポークスパーソンだ。メディアトレーニングの基本に沿って、しっかりキーメッセージを展開している。そして回答内容と回答する態度の真摯さに、多くのアメリカ人が好意感を抱いたと思う。最後のキング氏のコメントが、すべてを語っている。

キング氏「豊田さん、ありがとうございます。すべてがうまく展開するよう祈っています」
豊田社長「ありがとうございます。」

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